【太ることと大腸癌】
- 株式会社 SALES AGENCY
- 2023年11月30日
- 読了時間: 3分
大腸癌の手術をしていると、何故か、大腸の手術をした後に太る人が多いのに気がつきます。また、肝臓に脂肪が沈着する人が増えるのにも気がつきます。それは、大腸癌を多く手術している外科医なら、なんとなく、気がついていたことです。
だから、大腸癌をした後は、太りすぎや食べすぎにならないように、外来で指導しています。
しかし、うかつにも、わたしは気がつかなかったのですが、そもそも、太った人に大腸癌の方が多いのだそうです。
これは、トピックスとして、書いておきましょう。
2005年9月9日の共同通信の報道によれば、国立がんセンターによる大規模な疫学調査によって、体格指数(BMI)が27以上の男性は、25未満の男性に比べて、大腸癌の発生率が1.4倍なのだそうです。10万人の日本人を対象にして、9年間追跡調査した結果、その期間中に約1000人の方が大腸癌になり、その結果を解析して、わかったそうです。一方、女性では、肥満と大腸癌のリスクは関係がなかったそうです。
さあ、学生の皆さん、あなた方は、医学生なのですから、この事実から、何を導き出すか、考えることが大切です。
まず、男性に対して、太らないように指導することが大切だ、ということを導き出す人もいるでしょう。
『太ると、大腸癌になるよ、怖いかったら太らないで。』という具合にですか。診察室でこんなことを言うのですか。趣味のいい医者とはいえませんね。おそらく、こんなことでやせようと思い患者さんは、いないのではないでしょうか。ただ単に夢見を悪くしているだけですね。
では、次に。
女性は、肥満と、大腸癌の発生には関係がないから、ふとってもいいよといいますか。これもほとんど、意味のないことですね。肥満は、大腸癌以外の生活習慣病といわれる病気のリスクファクターなのですから、太っても安心などという指導は、ありえませんよね。太った女性への慰めですか。やはり、趣味のいい医者とはいえませんね。
では、次。
太っていることと、大腸癌のリスクの上昇とが、なぜ、関連があるのか、理由がわからないから、信じられない人もいますね。疑ってかかるのは、大切なことです。たかが、10万人の調査の結果です。日本人は、それ以外に1億人以上もいるわけですから、その人たちも調べれば、結果は変わってくるかもしれませんね。しかし、統計学的に意味のある違いとされてことですから、この場では、これは、事実であると考えて、話を進めましょう。それが、科学というものです。(つまり、間違っているかもしれないけれども、手続きを踏んだ間違いであれば、あるところまでは、それは正しいとして、話を進めなければならないという、ルールです。)
次は。
BMI27以上の方は、大腸癌の検診をさらに、精密にする必要がある。という、結論を導き出す人もあるでしょう。あるいは、同じことのひっくり返しに過ぎませんが、BMI25未満の方は、大腸癌の検診を軽くする、ということです。
リスクが、1.4倍も異なるのですから、1.4倍高い人々に、よりお金を費やして、リスクの低い人にかけるお金を回す、というのが、確かに、社会経済学的な考え方ですね。
この調査結果を社会経済学的に利用するというのは、重要なことでしょう。もし、経済的に利用しないなら、国立の施設で調査したお金は、無駄ということになってしまいますから。遊びやご研究のための研究ではないはずですから。
このように、ひとつの調査結果をどのように利用するかということは、臨床医としての感性の問題かもしれません。意味のある臨床をしなければいけないということですね。
今日は、ここまでの話になります。
明日は、大腸内視鏡検査の実習です。
さあ、太っている学生は、大腸内視鏡検査の被験者となりますので、次の時間までに、お尻を洗ってくるように。(笑)
メモ
BMIは、体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った値です。標準は、22で、25以上が肥満とされます。BMI 27は、身長165センチの場合、体重が、74キロとなります。
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